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【文系レポート対策】スピノザを学ぶためにおすすめ入門書5冊と最初に読むべき著作【哲学】

記事の内容

  • スピノザを学ぶために最適な入門書5冊を紹介
  • 最初に読むべきスピノザの著作を紹介

スピノザの再発見

スピノザは長い間誤解と批判にさらされ続け、その一方で多くの人々の関心を引いてきました。

その理由はスピノザの著作が平易なラテン語であるにもかかわらず、その内容が難解だからに他なりません

「第一次スピノザ・ルネッサンス」と呼ばれる汎神論論争の時期は、微分法を生み出したライプニッツの哲学に重ねて考えられることが多く、スピノザ独自の哲学はなかなか理解はされなかったのです。

ですから、スピノザの哲学をようやく理解することができるようになるためには20世紀まで待たねばなりませんでした。

スピノザは20世紀のフランスにおいて、ルイ・アルチュセールやジル・ドゥルーズ、マルシャル・ゲルー、ピエール・マシュレーなど未だに効力を持つ解釈者たちによって受容され、これまでの解釈が一新されていったのです。

この「第二次スピノザ・ルネッサンス」の時期にスピノザはいわば「再発見」されたのです。

そしてスピノザの哲学史上稀であり、特異な哲学はそれ以降の多くの哲学者たちに多大な影響を与えて今日に至るのです。

神即自然の意義

ではスピノザ哲学の何が多くの哲学者たちに影響を与えたのでしょうか。

その影響を全てここで解説する余裕はありませんが、一つ言えるのは従来の哲学が考えも想像することもできなかった思考をスピノザの哲学は展開したことにあります。

スピノザの特異な思考の例をドゥルーズの解説を噛み砕きながら挙げてみることにしましょう。

スピノザの神はいわゆる人格神ではなく、「神即自然」と言われるように「自然」を指します。

通例、形而上学における神は自然を超越したものであり、自然の外に立って自然を創造するものです。

これにより、自然の中にいる我々や動物も神によって作り出された被造物となります。

この被造物が作られるということは、それぞれの被造物が存在を持つことを意味します。

ですが、その存在は「同じ」存在という言葉でありながら、内容や意味に「違い」があるのです。

つまり、「神の存在」と「人間の存在」と「アリの存在」とでは「存在」の意味が全く違って聞こえてくるのです。

神の存在は絶対的・普遍的に存在し、存在しないということがありません。

逆にアリの存在は誤って踏みつけてしまっただけで死んでしまうような非常に儚いものです。

では人間はどうでしょうか。

人間は神ほどの絶対的な存在ではありませんが、アリよりはしっかりとした存在を持っているように思えるでしょう。

したがって、従来の形而上学では神を頂点とした存在に関するヒエラルキーが成立しているのです。

ですが、スピノザはこうしたヒエラルキー的な思考を拒絶します。

すなわち、神(=実体)と被造物(スピノザの用語では様態)としての自然はイコール(=「即」)であり、「存在」は「同じ」言葉であり、かつ「同じ」意味を持つのです。

スピノザにおいて、自然としての被造物とは神が変様した(=姿を変えた)ものであり、自然とは神の別の存在の仕方なのです。

こうして実体と被造物はもちろん存在論的な違いはあるものの、同じ存在の平面の中に位置づけられることになり、ヒエラルキー的な思考は破砕されるのです。

以上のように、スピノザは従来の哲学が到底考えもつかない思考を展開させ、多くの哲学者たちに多大なインスピレーションを与える続けています。

これはほんの一例であり、スピノザの本を読むことはこれまで考えたこともない思考への出会いに他なりません。

以下にはスピノザを読むためのおすすめの入門書やおすすめの著作と翻訳について書いていますので是非参考にしてみてください。

スピノザを読むためにオススメの入門書

ドゥルーズ『スピノザ 実践の哲学』

言わずと知れたスピノザ研究の名著がドゥルーズによる『スピノザ 実践の哲学』です。

スピノザブームの火付け役であり、未だスピノザを学ぶ上での最良の入門書なのです。

解説がわかりやすいだけでなく、読み物としても無類の面白さを誇ります。

ドゥルーズにはもう一冊『スピノザと表現の問題』と言う研究書がありますが、内容的にはこちらの方がより一般向け。

スピノザ哲学の主要概念集も収録されており、スピノザの著作を読むときに横に置いておくだけでその理解度は段違いに変わります。

またドゥルーズ自身の哲学にも直結するような記述が散見されるため、ドゥルーズ哲学を学びたい人にとってもうってつけの一冊と言えるでしょう。

上野 修『スピノザの世界』

昔から評判の良いスピノザの入門書が、日本のスピノザ研究をリードされてきた上野先生の『スピノザの世界』です。

非常に丁寧な解説でスピノザ哲学が解説されており、スピノザの入門書で何を読めばいいかと聞かれたら真っ先におすすめする本になります。

構成としては非常にオーソドックスで『知性改善論』から『エチカ』へと論を展開していく形になっています。

スピノザが知性改善論で「最高の幸福」を問い、最後『エチカ』において「至福」として結実すると言う構成は非常に面白く、最後まで飽きずに読むことができます。

ページ数も200頁弱と非常に手に取りやすい点もスピノザ初学者にはおすすめの点です。

スピノザの魅力が存分に詰まった一冊のため、スピノザをこれから読んでみようと思っている方はぜひ手に取ってみてください。

吉田 量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』

最近出版されたスピノザの入門書で非常にまとまっているのが『スピノザ 人間の自由の哲学』です。

スピノザの生涯を扱いつつ、スピノザの思想もしっかりと解説してくれています。

とりわけこの本の特徴は『エチカ』を表の主著とし、『神学・政治論』を裏の主著として取り上げているところにあります。

これまでのスピノザ入門書や研究書では『エチカ』だけが取り上げられて解説されることが多々ありました。

しかし、吉田先生が言うには『神学・政治論』を欠いて『エチカ』だけを読んでもスピノザ哲学は十全に理解されないとします。

『神学・政治論』から『エチカ』へという道筋のもと、スピノザ哲学の全体が提示されており、初学者にとっても、またスピノザを学んだことがある人にとってもおすすめです。

また初心者にはおすすめの日本語翻訳が示されていたり、研究者を目指す人にとってはスピノザの文献で引用すべきものが示されていたりするなど様々なレベルに対応した一冊と言えます。

フランソワ・モロー『スピノザ入門』

フランスのスピノザ研究者であるピエール=フランソワ・モローが著したスピノザ入門書です。

ページ数は180ページほどですが、非常に密度が濃く、入門書とはいえなかなか侮れない本になります。

本の構成は4章立てで、スピノザの生涯やスピノザの思想はもちろんのこと、スピノザに関する細かな情報が網羅されています。

またスピノザの思想は著作ごとに解説がなされており、それが見事なまとめになっているのです。

とりわけ非常に便利なのはスピノザの解釈や受容などにおける論争が収録されていることです。

どちらかというとスピノザ哲学を学んだことがある方が次のステップに向かうための本と言えるでしょう。

江川隆男『『エチカ』講義 批判と創造の思考のために』

『エチカ』のみを扱った本としておすすめなのが江川先生が著した『エチカ入門講義』です。

ドゥルーズ=ガタリの哲学をベースに、それに止まらない江川先生独自の新たな解釈を取り入れた一冊になっています。

所々難しい内容も含みますが総じてわかりやすく、『エチカ』に対する見通しがつきます。

この本の特徴としては『エチカ』を1章ではなく、3章から読解を試みている点です。

この点に関しては『エチカ』の1〜2章までは神に関する非常に抽象的な内容であるのに対し、3章からは様態(≒人間)の話が展開され、より身近な内容となり理解しやすくなるがゆえの工夫と言えます。

またこの本はスピノザ哲学のラディカルさをより先鋭化し、新たな思考を構築するためのアイデアが詰まっています。

『エチカ』を一冊通読してみたいと考えているのであれば、是非この本を傍においてチャレンジしてみることをおすすめします。

最初に読むべきスピノザの著作とおすすめの翻訳

ここまでスピノザを読むための入門書を紹介してきましたが、ここからはスピノザの著作で最初に読むべき本をご紹介していきたいと思います。

とは言え、スピノザの著作はラテン語やオランダ語で記されているため、基本的には日本語に翻訳された本を読むことになるでしょう。

したがって、ここではさらにおすすめの翻訳書も併せてご紹介することにしたいと思います。

私自身、何度も繰り返し読んでしまうほどスピノザの著作が好きです。

そんなスピノザの魅力をみなさんにも味わっていただけたら幸いです。

エチカ

まず一番に読んで欲しい著作はなんと言ってもスピノザの主著である『エチカ』です。

ですが、スピノザの著作の中でも非常に難解であり、文体も幾何学の証明のスタイルをとっているなどなかなか取っ付きづらいのも事実だと思います。

したがって、ぜひスピノザの入門書を読んでからチャレンジしてみることをおすすめします。

日本語の翻訳としては岩波文庫の畠中訳が鉄板です。

ラテン語からの翻訳が非常に素晴らしく、ほとんど誤訳がありません。

スピノザ研究でも頻繁に参照されている訳のため、レポートで使用する際もこちらを使うといいでしょう。

しかしながら、他に工藤先生が中公クラシックスから出版された『エティカ』や佐藤先生がみすず書房から出版された『エチカ抄』もおすすめです。

『エティカ』は翻訳が読みやすく、『エチカ抄』は抄訳(原文の一部を取り出して訳出すること)なのが残念ですが、エチカを読解するのに役立つ訳註が付されています。

知性改善論

上野先生が仰るとおり「スピノザ自身の手による入門書」と言えるのが『知性改善論』です。

こちらも鉄板なのは岩波から出ている畠中訳です。

研究としては非常に古いものになりますが、訳注もたくさん振られており、またラテン語の翻訳も秀逸です。

他にも近年出版された佐藤先生の訳がありますが、訳が独特で人によっては好みが分かれそうです。

しかし、訳注にはイタリアのスピノザ研究など最新のものが付されており、スピノザを読解する上で重要な一冊であることは間違いありません。

神学政治論

スピノザのもう一つの主著と言えるのが『神学・政治論』です。

こちらも畠中訳がありますが、そちらは非常に古く旧字体のままであるため現代人には非常に読みにくくなってしまっています。

今は吉田先生が訳されたものがあるため、基本的には光文社古典新訳文庫版を読むのがベターでしょう。

こちらはエチカよりも抽象度が下がるため読みやすく、また巻末の吉田先生の解説も秀逸です。

スピノザの著作や概念になれる意味でも『エチカ』の前に読んでみるといいかもしれません。

レポートでの扱い方

スピノザの哲学は従来の哲学と比較することでレポートの論点を作るのに非常に便利です。

なぜなら、スピノザの思考はこれまでの哲学が大前提としていた思考を批判し、別の仕方で思考を展開しているからに他なりません。

というのも、スピノザ哲学に出てくる哲学用語はスコラ哲学やデカルト哲学の概念をそのまま用いているのですが、そこに込められる意味内容はスコラ哲学やデカルトの哲学とは全く異なっているのです。

つまり、スコラ哲学やデカルト哲学の概念を徹底的に厳密化することで別の新たな体系を打ち立ててしまっているのです。

それゆえ、スピノザの哲学は従来の哲学とは一線を画した思考が展開されているのです。

こうしたことは上記で紹介した5冊の入門書でも紹介されています。

入門書でスピノザが対決しようとしている思想家のことを知り、どのような思考を相手どってどのようにそれに批判を加えているかを考えてみましょう。

これをレポートでしっかりとまとめることができれば単位は自ずと取得することができます。

とはいえ、そのまま書き写してしまっては盗作になってしまい落単の原因となりますので、必ず自分の言葉でまとめるようにしましょう。

レポートの書き方は当ブログでも紹介していますのでぜひ参考にしてみてください。

なお今後スピノザの哲学に関しても note. を書いていこうと思っていますのでそちらも是非みなさんの参考になれば幸いです。

スピノザという特異性の思考を理解するには

ここまでスピノザを学んだことがない人におすすめの入門書をご紹介してまいりました。

スピノザの著作は非常に難しいです。

なぜなら、スピノザ哲学は内容もさることながら『エチカ』は幾何学の形式を用いて書かれており、初めて『エチカ』を読む者はその最初の定義から頭を悩ませることになるからです。

ですが、スピノザのエチカはこの文体でなければ決して完成しなかったように思います。

というのも、スピノザが構築した新たな思考には普通の論述形式では記述することができなかったからです。

スピノザの特異な思考には、それを表現する特異な文体が必要なのです(=心身並行論)。

したがって、スピノザを読んで理解しようと志すとき、この文体も含めて味わい尽くす必要があるといえます。

またスピノザを読むときはこれまでの思考法は使うことができません

従来の哲学的な思考法でスピノザを読もうとするとき、その人は冒頭で触れた「第一次スピノザ・ルネッサンス」と同じ過ちを犯すことでしょう。

ですから、スピノザを読む際に必要なのはこれまでの哲学的思考法を捨て、スピノザの言葉をそのまま受け取って自分なりに考えてみることです。

これには多大な労力が必要となります。

しかし、これ以外にスピノザを読解する術はないのです。

上記で紹介した入門書を横に置き、じっくりとスピノザと向き合ってみてください。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

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