記事の内容
- 卒業論文の書き方について具体的、かつ詳細に解説
- 卒業論文の準備について(2)
- 資料集めの方法について
- 海外文献の探し方と購入方法
- 資料集めを終わらせておくべき時期について
卒論の執筆前に
前回の記事(【文系】卒論のテーマ(題材)を設定する9つの方法【卒論の書き方(1)】)では、卒業論文のテーマ設定について解説しました。
ではテーマ設定が終わったから、すぐさま卒業論文の執筆に着手するかと言われればそうではありません。
卒業論文の執筆の前に重要な作業があるのです。
それが「資料(史料)集め」(以下「資料」で統一)です。
資料集めを行い先行研究によって自論を補強し、自分の卒業論文に根拠を与えることができるのです。
もし資料をあつめることなく論文を書くならば、それは自分の感想をただ連ねているようなものになってしまいます。
論文には必ず「客観性」が必要となり、他の人にとっても自論が妥当することを示す必要があるのです。
したがって、資料集めを疎かにするということは、卒業論文の説得力を下げ、卒業論文の質を低下させてしまうことに繋がります。
こうしたことから、卒業論文を執筆する前には資料集めが必須になるのです。
資料集めの方法
では資料集めはどのように行えばいいのでしょうか。
資料集めといってもやり方によっては様々な方法が存在します。
そこで今回は具体的に様々なパターンに分けて解説していきたいと思います。
いろいろと試してみて自分に合った方法を見つけてみてください。
研究論文を探す
まず王道中の王道ですが、先行研究は論文から探しましょう。
論文は手軽に検索することができ、かつ文字数もそこまで多くないため、自分の扱うテーマに関してどのような議論があるかが把握しやすいです。
もちろん、卒論で自論を展開する際の根拠付けに利用できたり、反論すべき対象として挙げることもできます。
以下に紹介する方法では、無料でダウンロードして読むことができる論文もあるので、まずは論文検索から先行研究を探すのがおすすめです。
検索方法としては、以前の記事でもご紹介しましたが、CiNii Article で日本語の研究論文を検索することができます。
CiNiiを利用することでネットにアップロードされている論文をダウンロードして読むことができますし、ダウンロードができなくてもどのような論文がなんの研究雑誌に掲載されているかがわかります。
他にも大学が独自に契約している論文検索用のデータベースが利用できたりします。
論文検索用のデータベースの使い方は、著者名やタイトル、キーワードを入力することで検索することができます。
論文検索のコツは自分の研究対象のキーワードで絞り込むことです。
この際、必ず「中世 ヨーロッパ 城」と言った形で語と語の間には空白を入れるようにしましょう。
また無闇にキーワードをたくさん入れても検索がかけづらくなってしまいます。
目安としては2から3キーワード程度で収めるといいでしょう。
そして、もし納得のいかない検索結果であった場合は、キーワードを別のものに変えたり、他のキーワードで言い換えられないかを考えましょう。
POINT
研究書・専門書を探す
論文と同様に重要になってくるのが、研究書・専門書になります。
研究書・専門書とはある限定されたテーマに関して「狭く深く」研究されたものになります。
したがって、自分と同じテーマ、ないし近いテーマを扱っている先行研究を見つけることができれば、その本一冊で自分の卒論の議論のたたき台になったり、様々な節や章に引用したりすることができるようになります。
もちろん、参考文献が一冊だけでは卒論にはなりません。
しかし、ある特定のテーマに関して詳述されているため、それだけで自分が扱うテーマに関する先行研究や今現在盛んに議論されている論点など、たくさんのことがわかるようになるのです。
したがって、論文以上に自論の根拠づけに使えたり、逆に自論に対する反論として使えたりします。
研究書・専門書を探す方法はいくかあります。
1つがネット検索をすることです。
Amazonなどで調べてもいいですし、自分の大学の図書館から検索をかけても調べることができます。
2つ目は論文で使用されている参考文献から探す方法です。
論文の多くは、同じテーマを扱っている研究書・専門書を引用しています。
したがって、自分が扱うテーマに似た研究書や専門書を簡単に見つけることができます。
おすすめは最も出版年が新しい本を選ぶことです。
出版年が新しいものほど、古典とされる研究書・専門書を抑えつつ、最新の研究動向や新しく出版された本などが盛り込まれています。
3つ目は一冊でも研究書・専門書が見つかれば、その研究書・専門書が扱っている参考文献から探す方法になります。
研究書・専門書の参考文献に載っている本を探し、またさらに探しだした本に載っている研究書・専門書の参考文献に掲載されている本を探す。
このように、自分の卒論テーマに近い研究書や専門書が一冊でも見つかれば、あとは芋づる式に参考文献を探すことができます。
POINT
・自分の卒論テーマに近い研究書・専門書も探してみよう。
・特定のテーマについて「狭く深く」議論されており、自分の卒論テーマに近い内容だと議論のたたき台になったり、引用したりできるなど便利。
・ネット検索、論文、研究書などの参考文献から探してみよう。その際、出版年が新しい本から探してみるのがおすすめ。
統計を取る
アンケートをとって統計を取ることも自論の根拠の補強に利用することができます。
しかしながら、アンケートの設問がしっかりしていないと卒論で扱うことができるような統計を取ることはできません。
一番重要なことは自分が扱うテーマに即した設問を作ることです。
したがって、まずはテーマ設定をしっかりと行い、その上で自分なりの仮説を立てる必要があります。
アンケートで統計を取ることによって、自分が立てた仮説が立証されるかどうかを確かめるのです。
またいい統計を取るコツは設問に対して選択肢を作ることです。
というのも、アンケートの解答欄を自由記述ばかりにしてしまうと回答がバラけてしまい、しっかりとした統計を取ることができないからです。
自由に回答してもらう項目を作るのはもちろんいいのですが、統計がしっかり取れるように選択肢を用意することを心がけるようにしましょう。
そして、アンケート結果はエクセルなどにまとめておくことが重要です。
アンケートは取りっぱなしでは意味がありません。
取ったデータをいつでも利用できるようにしておくことが卒論の執筆において重要になります。
ですが、統計をとってデータを出しただけでは到底、卒業論文に使うことはできません。
統計を卒業論文で使用するためには「統計処理」をして、出た結果に対して「解釈」を加えなければなりません。
統計処理とは簡単に言ってしまえば、アンケートなどで取った統計を論文に使い易いように加工することです。
そしてその加工したデータを自分なりに解釈する必要があります。
統計とはあくまでも確率であり、この確率がなにを意味しているかを自分なりに考察する必要があるのです。
したがって、統計を取る前に自分なりの仮説を準備しておくことが大事なことになるのです。
統計処理の方法に関しては、以下のような本が出ているので参考にしてみてください。
卒論で統計を利用する人におすすめ
POINT
・アンケートをとって統計をつくろう。その際、テーマに沿った質問をつくり、解答欄には選択肢を設定しよう。
・アンケート結果はエクセルなどにまとめておくといつでも使えて便利。
・統計を卒論で使うためには「統計処理」を行い、出た結果に足して自分なりの解釈を加える必要がある。そのためにしっかりと自分なりの仮説を作っておこう。
雑誌を調べる
論文を探す際に研究雑誌については触れましたが、日常的に売られているファッション雑誌なども研究で扱うことができます。
例えば、ファッションの歴史を扱う際に過去のファッション雑誌を利用します。
具体的に卒業論文でストリートファッションの歴史について調べているとしましょう。
その場合、「ストリートファッション」という言葉が世に出た時期の記事をあたってみたり、リバイバルしたときの記事を探してみたりするのです。
そして当時の記事ではどのようにストリートファッションについて言及・紹介されているのか調べてみましょう。
一例にはなりますが、このような手法を使うことで当時そのファッションがどのような評価を受けていて、どのように変遷いくかを知ることができるのです。
しかしながら、多くの場合、雑誌のみを利用して論文を書くことはできません。
雑誌の他に、論文や研究書などを併用して執筆した方が、自論の補強にもなるため卒業論文の完成度は高くなると言えます。
POINT
・日常的に売られているファッション誌なども卒論で扱える場合がある。
・過去の記事でどのような記載がなされているかを調べてみよう。
・しかしながら、雑誌単体では卒論にはならないので、研究書や論文などと併用して卒論をかくようにしよう。
現地に足を運ぶ
卒業論文の資料集めとして現地に足を運ぶことも重要です。
現地に足を運ぶというのは、研究対象が歴史遺産だったり、研究対象の資料館があったりした場合など、実際にそこへ行ってみて資料を集めることを指します。
そして研究対象が実際どのようなものであるか、あるいはどのような場所で、どのように生活していたのかを肌感覚で知ることができるのです。
その際、職員の方や当事者の方にお話を聞くことができればさらに言うことなしです。
職員の方や当事者の方は、研究対象について多くの知識をもっているため、卒論のヒントとなるお話を聞くことができる可能性があります。
もちろん職員や当事者の方にお話を伺う際は必ずアポイントを取るようにしてください。
また現地の図書館を利用することで、地元新聞の当時の記事を閲覧することができたりします。
こちらも卒論を執筆する上で、重要な手がかりになる可能性もあります。
研究対象が新聞記事に取り上げられた記事がないかを探してみるのもいいでしょう。
POINT
・現地に足を運んで資料を収集しよう。
・その際、職員の方や当事者の方にお話を聞いたりやインタビューを行えたら◎
・他にも現地の図書館を利用して、当時の記事を閲覧することも資料収集としては重要。
先輩・指導教員に聞く
先輩や指導教員からアドバイスをもらうことも卒論執筆においては欠かすことができません。
まず同じようなテーマを研究している先輩が身近にいるならば、その先輩にアドバイスをもらいましょう。
ここでの先輩というのは大学院生も含みます。
ゼミの終わりや、先輩がやっている勉強会に参加するなどして声をかけてみるといいでしょう。
きっと資料を集めるのにおすすめの方法や、使いやすい論文や研究書などを教えてくれることと思います。
また、もし聞くことができる先輩がいない場合、指導教員の先生を頼ってみましょう。
先生はその道のプロです。
資料集めの方法で困っていることがあれば、率直に相談してみることをおすすめします。
しかしながら、先生と相談するのは必ずメールなどでアポイントを取ってからにしましょう。
先生も人間ですから最低限の礼儀がなくては、相談にのってあげたいという気持ちもわかなくなるものです。
アポイントが取れたら、先生に指定された時間と場所に間に合うように向かうようにしましょう。
POINT
・資料収集で悩んだら先輩や先生(指導教員)に相談してみると解決できる可能性がある。
・ゼミの終わりや、先輩が行っている勉強会などに参加して声をかけてみよう。
・先生に相談するときは事前にアポイントをとることを忘れずに。
海外文献の探し方
ほとんどの学生は卒業論文で海外文献を扱うことはないかもしれません。
しかしながら、仏文や独文に所属していたり、大学院に進学するために卒論を書いている方は海外文献を探す必要があります。
そこで海外文献の探し方についても触れておきたいと思います。
まずおすすめなのが、自分の卒論テーマに関係する文献が大学の図書館にないかを検索することです。
検索の仕方は大学図書館のホームページに行き、「蔵書検索」の検索バーに自分の使用する言語で、卒論テーマのキーワードを入力します。
一度検索してみていい結果が出なくとも、いろいろとキーワードを変更して行ってみるのがコツです。
またAmazonで検索してみることもおすすめです。
とはいえ、日本のAmazonではありません。
アメリカのAmazonやフランスのAmazonなど、卒論で使用する言語の国のAmazonで検索をかけることで海外文献を見つけることができるのです。
検索した海外文献は海外のAmazonからも購入することができ、日本に配送することもできます。
他にも論文や研究書に載っている参考文献一覧から海外文献を探すこともできますし、Google Scholar や Academia. edu などを駆使して海外論文を検索することもできます。
大学によっては論文検索ができる有料のデータベースと契約している場合もありますので、有料のデータベースを利用できるなら活用しない手はありません。
自分のテーマに近い海外論文を一つ見つけることができれば、その論文に載っている参考文献から文献を探すことができます。
したがって、まずは海外文献を一冊見つけることで、その後芋づる式に海外文献をリストアップしていくことができるのです。
資料収集における3つの注意点
ここまで海外文献も含めた卒業論文の資料収集の仕方について解説してきました。
ですが、資料収集に関して注意しなければならない点もいくつか存在します。
したがって、ここでは注意すべき3つの点について解説したいと思います。
分野・専攻・卒論テーマに合わない方法は使わない
一番やってはいけないことはその分野・専攻に適さない方法を選んでしまうことです。
例えば、歴史学を専攻していて「江戸時代における祭り」というテーマで卒論を書こうとしているにも関わらず、アンケートを行って統計を取ったとしても卒業論文ではほとんど使うことができません。
歴史学の場合、史料を丁寧に読み込み、先行研究としての論文や研究書を読み込むことが大事だからです。
アンケートをとったとしても歴史学という分野においては、活用できる余地が少ないといえるでしょう。
このように、専門・分野によって、また卒論のテーマによっては合う方法と合わない方法が存在するのです。
卒論で使う資料集めの方法は、自分が専攻している学問分野によって変化していきます。
独自性を出すために、学問分野であまり使われていない手法を使うとしても、メインの方法となるのはやはり学問分野で主として扱われている方法なのです。
したがって、自分が行おうとしている資料集めの方法を、そのまま行っても大丈夫か必ず確認するようにしてください。
ウィキペディアからの引用はしない
レポートなどを執筆する際に先生方から注意されることがあるため、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、ウィキペディアからの引用も原則的にご法度です。
たしかに最近のウィキペディアはとても参考になる記載が多々あります。
しかし、ウィキペディアはどのような人が書いたかがわからないため、自論の補強として提示するには根拠に欠けてしまうのです。
したがって、資料を集める際にウィキペディアを論拠として集めることは避けましょう。
とはいえ、もし自分の研究対象についてウィキペディアの記載があるならば、参考程度に読んで見るのもいいでしょう。
一般的にどのように受け取られているのかをおおまかに知ることができます。
参考文献が少なすぎる
参考文献や資料が見つかったからといって、それが1、2冊程度では卒業論文にはなりません。
参考文献や資料はできるだけ多く準備する必要があるのです。
なぜなら、1冊だけでは他に自分と同じような議論をしている先行研究があるかもしれず、本当に自分独自の議論が提出できているかわからないためです。
卒業論文は自分独自のテーゼを打ち立てる必要があり、他の先行研究と差別化を図らねばならないのです。
したがって、自分の卒論に関係する参考文献・資料は、卒論執筆前にできるだけ網羅しておく必要があるといえます。
もちろん、資料集めの段階では内容まですべて把握していなくても大丈夫です。
資料集めの段階では、どのような参考文献・資料があるかを把握しておくようにしましょう。
また参考文献の目安はといえば、とりあえず15-20冊程度(論文なども含む)といえるでしょう。
もちろん、これでも専攻や卒論のテーマ次第では少ない場合もあります。
心配な場合は、参考文献がどれくらい必要かを指導教員に確認してみるといいでしょう。
時期について:いつまで卒論の準備は終わらせるべきか?
最後に資料収集はいつまでおわらせておくべきかについてお話をしてこの記事を閉じたいと思います。
もちろん、できるなら早く終わらせられるに越したことは有りません。
理想を言えば、大学3年生の段階で資料準備まで終わらせておくのが理想です。
というのも、ゼミには4年生の先輩がおり、実際に卒論を執筆をしている姿をみることができ、また卒論に関して話しを聞いたり、アドバイスを貰えたりするからです。
しかしながら理想はあくまでも理想であり、就活などでなかなかうまくはいかないものです。
ですから、遅くとも4年生の6月頃までにはテーマ設定も含めて資料準備を終わらせるようにしましょう。
一番時間がかかるのはなんと言っても卒論の執筆作業です。
これ以上遅くなってしまうと卒論を書く時間が少なくなってしまい、結果、締め切りギリギリまで卒論に追われてしまうことになってしまいます。
卒論は作業量が非常に多いにもかかわらず、一年で提出しなければならないという期限があります。
卒業に必要な単位がギリギリの人は大学4年生の後期も授業をとる必要があるでしょうし、単位を取り終えている人も急に暇になるとダラダラしてしまいがちです。
したがって、卒論準備はできるだけ早く行い卒論の執筆にいつでも向かうことができるようにしておきましょう。
次回は今回集めた資料をどのようにして活用していくかについて解説していきたいと思います。